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コーヒー屋って舐められてます?

毎年春になると「コーヒー屋(カフェ)を始めたいんです。どうしたらいいですか?」という問い合わせが増える。この春もすでに4~5人の方から聞かれていて若干閉口しているところである。

いい加減毎年同じ質問をされすぎて、こちらもこの質問に対する受け答えのフローチャートが出来上がってしまっているのだが、そのフローチャートに従うと次に僕はこう聞き返すことになる。「どうしてコーヒー屋(カフェ)をやりたいんですか?」と。

この先は相手の答えによってフローチャートの分岐がいろんな方向に向かっていくんだけど、残念ながら最近はフローチャートが即終了になってしまう、言い換えれば僕ではお役に立つことができないタイプの答えが返ってくることがとても多い。

いくつか例を挙げると「自分の居場所を作りたいから」「人と人が繋がるコミュニティをつくりたい」「みんなの居場所になれるような場所をつくりたい」などなどが即終了フローチャートへとつながる回答だ。こんな感じの理由でコーヒー屋を始めたいというのであれば僕としてはアドバイスできることは何もないし、場合によってはその理由なら絶対にやらない方がいいですよという提案をすることもある。

「自分の居場所を作りたいから」「人と人が繋がるコミュニティをつくりたい」「みんなの居場所になれるような場所をつくりたい」という気持ちそのものを否定するわけじゃないんだけど、それを表現するための商売としてコーヒー屋やカフェといった業態を選択することには同意できないし、もうちょっと強めに言うとこの種の返答をする方はコーヒー屋という仕事を下に見ている気がして不愉快な気持ちにすらなる。

まずなぜそうした気持ちを表現するための商売にコーヒー屋(カフェ)が不向きなのかについてだが、身も蓋もない言い方をすれば『単価が安くて回転率が生命線のコーヒー屋が「人と人が繋がるコミュニティ」や「みんなの居場所」になってしまったら回転率が悪すぎて利益なんか出るわけないじゃない』ということになる。大手企業がブランディングの一環としてコミュニティ的役割を重視したカフェを運営するのは一向に構わないんだけど、個人事業の規模で初手からそういう場所を作るのは商売として詰んでいると言わざるを得ない。

僕はお店を始める前に事業計画書を作ることを推奨しているが(作るのが当たり前なんだけど)、事業計画書には収支計画も含まれる。お店の売り上げは「客単価×客数」なので客単価が低いコーヒー屋は客数の方を増やす以外に売り上げを増やす方法は基本的にない。なのにコーヒー屋にコミュニティ的役割をイメージする人はこの大事なことすらそもそも理解していない。信じられないことだが理想の場所を作ることを是としすぎて、利益が出なければ場所なんてそもそも維持できないことまで想像が及んでいない。

もうひとつ。

なぜ先に書いた開業動機が「コーヒー屋という仕事を下に見ている」と感じるのかだが、それは肝心の商売道具であるコーヒーそのものについて開業動機の中で何ひとつ言及していないからだ。このタイプの方々に「コーヒーの勉強ってされてます?」とか「どこかコーヒー屋さんで働かれた経験は?」って聞くと面白いくらい一様に「それはこれから勉強していきたいと思ってます」という答えが返ってくる。

当たり前だけどコーヒー屋はコーヒーを消費者に提供し、その対価としてお金を頂く商売だ。まあ多少は場所代や雰囲気代がコーヒーの価格に上乗せされているかもしれないけれど、コーヒー屋をコーヒー屋たらしめているものは自らが提供するコーヒーの味でしかない。そして消費者はよりおいしいコーヒーを選んでくれる(と信じている)からもっとおいしいコーヒーを提供できるよう一釜一釜の焙煎時に頭を悩ませているわけだし、そのコーヒー豆から最良の一滴を抽出できる方法を追求している。

「自分の居場所」や「コミュニティ」を作りたいという開店動機の人はこうした見えない部分のコーヒーの難しさを全く理解していない。理解していないどころか自分が理想とする場所を作るにはコーヒーという道具を使うのが一番簡単だと無意識で思ってしまっている。なぜならそうした場所を作るのに飲食店を選ぶのであれば別にコーヒーである必然性は無いわけで、中華料理でもフランス料理でもイタリアンでもお寿司でも提供する料理の種類はなんだっていいはず。でもそうした本格的な料理を作るには経験がいるから難しい。だけどコーヒーならたいした経験がなくてもお金に換えられるレベルに到達できるはず。無意識なのかもしれないけどそう思われているように感じるから下に見られていると思うわけだ。20年以上焙煎してる僕の立場から言わせてもらえば、コーヒーの味はほんの些細な焙煎の違いで大きく変わってしまうし、抽出するときに注ぐお湯の太さが数mm違うだけで全然違う味として表出される。その微細な差がおいしいコーヒーとおいしくないコーヒーを分けるのだから簡単なものであるわけがないし、追求すればするほど奥深いと思わされる世界だ。

余談だが、最近は自家焙煎のお店でもおいしくないコーヒーを平然と出すところが増えている。一般に良く名が知られるお店でも必ずしもおいしいコーヒーを出しているとは限らない。というか名が知れてある程度規模が大きくなったお店ほど平気でおいしくないコーヒーをさもおいしいものであるかのように理屈をこねて提供している。もしかしたらコーヒー業界のこういう状況がコーヒー屋を始めたいと思う人たちの心理的なハードルを下げているのかもしれない。この状況が続けばコーヒー業界はそう遠くないうちに自らの首を絞めることになるので心当たりのあるお店には自省してほしいと切に思っている。

閑話休題。

というわけで、コーヒー屋を始めたいと思うのであればその理由の第一は「おいしいコーヒーを作りたい」であってほしいと願っているというのが正直なところだ。その理由であれば質疑応答のフローチャートはそこから細かく枝分かれしていき、場合によっては僕でもお店作りの役に立てることがあるかもしれない。実際自分が焙煎などを教えて今は自分の屋号で活動している弟子たちは程度の差はあれ最初からコーヒーという飲み物に真摯に向き合っていたし、だからこそこちらもしっかりと教えてあげたいという気持ちになれたのだと思う。

以上いろいろと書いたが、これを読んでなお自分でコーヒー屋(カフェ)を始めたいという気持ちの方は当店で開催している『コーヒー屋になりたい人向けスクール』を受講してみるのがおすすめです。

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2024-04-17 | お知らせ

スクール受講者募集のお知らせ

「コーヒーを仕事にしたい人向けスクール」5月26日開講分の受講者募集中です。開催日程や内容、受講料金などの詳細はこちらのページからご覧ください。受講のお申し込みも詳細のページのお申し込みフォームからお願いします。定員は3名です。できれば2名以上で開催したいと思ってますので興味のある方はぜひご参加ください。

「コーヒーを仕事にしたい人向けスクール」の詳細はこちら

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商売における世界観という付加価値について

ちょっと前に生業としてのコーヒー焙煎をやめてしまった20年来の友人とやり取りをしたときに、閉業した理由のひとつとして「個人商店もSNSで世界観を表現して付加価値をつけなきゃいけない時代になってしまって、自分はそういうのをやる気になれない」って言っていたのが印象的だった。

この発言は「個人商店の規模で世界観を表現したSNS投稿をするのは面倒」という意味ではもちろんない。彼はおそらく「コーヒーがおいしいという本質が満たされているのに、さらに世界観という付加価値をつけて消費者の共感を得ないとコーヒー豆が売れない世の中なんて馬鹿げている。」と言いたかったのだと思う。

彼と自分は20年くらい前の同時期に同じ喫茶店のコーヒーに惚れ、そこのマスターの元でコーヒーのいろはを教わった兄弟弟子であり、人生の大半をSNSが存在しない時期に過ごしてきたので彼の言いたいことはよく分かる。なんなら僕は彼以上に「自分のやっている商売に世界観という付加価値をつけて消費者の共感を得る」ことに嫌悪感を持っている人間だから。

要するに僕らは自分たちが提供するコーヒーの味以外の部分に「いいね」が付くことを求めていない。「いいね」なんて簡単に共感されてしまう部分に僕らが考えるコーヒーの価値などありはしないし、そもそも僕らが大切にしているものをもしSNS上で表現できたとして、それに対して親指でポチっとハートマークを付けられてなんとなく分かったふうにされることは屈辱ですらある。

古い考え方と言われてしまえばそれまでだが、SNSにあまた投稿されている大人数に共感される分かりやすくカッコよい世界観など僕らは興味がないし、本来は本人しか理解できないはずの職人としての職能すらもSNS上に表出してしまえば「どれだけ『いいね』がついてバズったか」というキャッチーな数値に置き換えられ一瞬で消費されてしまう。そんな世界でコーヒー屋という商売を続けるためは本来の自分自身のほかに、どうしてもSNSで受ける世界観を持った半ば偽りの自分を演じなければならないし、そんなことを長く続けられるわけがない。

SNSで世界観を表現することがマーケティングの大きな要素となってしまった現代でスパッと商売としてのコーヒーを諦めてしまった友人の行動は僕から見ればカッコいいし、それ以上にうらやましくもある。が、アンチテーゼというわけではないが僕はもうちょっと潮流に逆らってコーヒー屋を続けるというあがきをしてみたい。幸運なことに悟理道珈琲にはここに書いたような考えを理解し許容してくれるお客さんが居てくれているように感じているから。

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『巡る こ~ひ~展』出展のお知らせ

宇都宮市のGallery HANNAさんで2年に一度だけ開催されるコーヒーと器の展示会『巡るこ~ひ~展』に今回も参加させていただきます。

悟理道珈琲工房の出店日は2024年2月12日(月・祝)と2月25日(日)の2日間です。両日とも『asunosekai』さんの素敵なお菓子と一緒に出店です。

当店以外にもたくさんのコーヒー店の味を日替わりでお楽しみいただける展示会となっておりますのでぜひお越しください。

Gallery HANNNA さんのホームページ

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深煎りのコーヒーのおいしさに関する考察と純粋カッピング批判

浅煎りのコーヒーが一般に広く受け入れられるようになって久しいですが、一方でフレンチロースト以上の深煎りのコーヒーに出合う機会は少なくなってきているような気がしています。いわゆる「スペシャリティコーヒー」を扱うコーヒースタンドなどではフルシティローストが一番深い焙煎度合いでこれを深煎りとして販売しているお店も見受けられます。

僕としては深煎りと呼べるのはやはりフレンチロースト以上、豆の色が赤褐色ではなく少なくとも黒褐色より黒寄りのものだけで、フルシティローストは中深煎りと呼んでいます。(実はこの辺の呼称については明確な定義がある訳ではないのでお店の都合次第で便利に呼び分けられています。)

便宜上「深煎りと浅煎り、どちらの方がお好みですか?」と豆選びに迷われている方に聞くことはありますが、僕は別段どちらの方が好きということは無く、おいしければ、もうちょっとコーヒー屋的な言い方をすればその豆に一番合った焙煎度合いが採用されていれば焼き方が浅かろうと深かろうとおいしいコーヒーだと考えています。

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2023-10-06 | お知らせ

スクール10月開講分 受講者募集のお知らせ

「コーヒーを仕事にしたい人向けスクール」2023年10月開講分の受講希望者の募集を開始します。

日程や内容などの詳細はこちらのページをご覧ください。

コーヒーに関する知識はもちろんのこと、他のスクールではおそらく公開していないであろう店舗経営の内側まで知ることができる内容になっております。

コーヒー屋を始めることは簡単ですが続けるのはホントに大変なので、個人的には開業はそこまでオススメしませんし、スクールを受けることで「自分には難しそうだな」と思われる方もいらっしゃると思います。しかしながら芯のある情熱(僕の場合それは「美味しいコーヒーを生み出す」という一点のみです)があれば意外となんとかなるので、本気でコーヒーに向き合える自信のある方はぜひお申し込みください。

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2023-09-27 | お知らせ

栃木市生まれのクラフトビール販売スタート

栃木市嘉右衛門町の歴史ある味噌蔵『油伝味噌』さんがその歴史に新しい1ページを記す取り組みを始められました。それが写真のクラフトビールの製造・販売です。

個人的にはビール大好き人間なのでご近所で本格的なビール作りが始まったことは本当に嬉しい!

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2023-09-02 | Coffee, Netshop

2023の中国・雲南 天空農園 プーアル ナチュラル ダブルファーメンテーションはおいしいです

去年はイマイチ・・・というか発酵が謎な方向に向かってしまっていて取り扱わなかった『中国 雲南 ナチュラル ダブルファーメンテーション』ですが、今年は香りも素晴らしくなぜかついでに欠点豆が激減していたので二年振りに販売することにしました。

収穫・選別を行った後にチェリーを袋詰めにしたまま一次発酵。その後一般的なナチュラルプロセス同様天日干しにしてその乾燥中に二次発酵が進むため「ダブルファーメンテーション」という名称がついています。(このような過程を経るため再現性が低く、年度による風味の差が大きくなるそうです。)

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実際Amazonってどのくらい売れるの?

2023年7月15日からAmazonにコーヒー豆の出品を始めて一か月経ちました。というわけで数字や傾向と対策、今後の目標などを簡単に記しておきます。

2023年7月15日~8月14日までのデータ

注文件数:33件

注文商品個数:35個

売上:44,400円

販売初日はインスタで告知したこともあってそこからの流入で注文していただいたのがほとんどでした。7月23日頃からはAmazonで検索ワードが指定できるクリック課金型の広告を一日の上限予算1,000円で掲載しており、以降はそこからの注文が8割を占めています。検索キーワードは「深煎り」「マンデリン」などマンデリンを販売するのに特化した形で設定しています。なので売れている商品のほとんどはマンデリンで、たまにブレンドが売れる程度です。

出品から半月くらい経ってからは1~2件/日の注文が入っていましたが、お盆期間はピタッと止まりました。お盆休み後半からはまた1~2件/日の注文ペースに戻っています。

広告を出しているとは言え、最初の一か月で平均1件/日を上回る注文があり、しかも毎日安定して売れ続けているのはうれしい誤算でした。正直夏場はAmazonのシステムに慣れたり、商品ページへのアクセスや注文の傾向を探るための実験期間だと思っているので秋以降コーヒー豆が本格的に売れるシーズンに向けていい準備ができたのではないかと思います。

今後の方針

Amazon出品での当面の目標は『今年中に一日の売り上げ10,000円で安定させる』ことなので、注文件数にすると『8件/日』が目指すべきところになります。要するにAmazonで月30万円の売り上げを作りたいと考えています。このくらいの売り上げがあれば、諸々の経費をひっくるめても満足のいく利益が出せます。ただしこのペースで注文が入ると一日2釜焙煎回数が増えることが確定するので焙煎時間の捻出も課題です。

売り上げを増やす方策ですが、悟理道珈琲としては「マンデリン極深煎り」をメインアイテムとして育てていきたいのでクリック課金型広告のキーワードの最適化や、時期に応じて上限予算を増やすことなどが必要と思われます。あとは商品レビューを増やすための地道な施策も必要かな。

Amazonは楽天と違い「店舗での出店」ではなくて「商品単位での出品」が基本的な考え方なのでサイト上でやれることはあまり多くないのですが、作りこめる部分はもう少し作りこんで購買意欲を高めるようにする必要も感じています。それでも「悟理道珈琲工房」としての存在感も出していきたいので、もし目標通り売れればブランド登録も検討したいところだけどそれはまだ先の話。

Amazonに出品してみたいと思っている方へ

コーヒーというジャンルに絞って考えると高価格帯のコーヒー豆の出品はあまりオススメできません。上述した通り店舗としての出店要素が薄いのでAmazonでは高価格帯の商品のアピールは難しいところがあります。高価格帯の商品を扱うコーヒー店は自社のブランド化もしっかりされているところが多いはずなので、自社サイトに紐づいた独自のネットショップの方がたぶん売りやすいです。

逆にウチくらいの中~高価格帯の豆であればAmazonへの出品はそこそこオススメです。ただし消費者からの率直なレビューが付くので商品に絶対の自信があることが前提となります。Amazonで最も売りやすいのは低価格帯の商品なのは間違いなく、その次が中~高価格帯(ミドル~アッパークラス)の商品です。ただしAmazonで販売する場合は「送料無料」が当たり前になってしまっているので、販売者側で送料負担することは前提にする必要があります。ウチの場合はそこを考慮して配送方法にクリックポストを採用しました。

その他、システムの月額利用料や販売手数料、広告費などが必要になってくるので利益は結構削られます。それでも「コーヒー豆だけ出品したい」とかいう場合には楽天よりもはるかに格安の金額で多数の消費者に見つけてもらえる可能性があるので、僕個人としてはAmazon出店はアリかなと思います。

難点としては商品登録のシステムがちょっと分かりにくいことが挙げられますが、慣れちゃえば何とかなります。なんなら登録した商品が売れない限り無料で使える「小口出品」というプランがあるので、とりあえずそっちを使ってシステムの操作に慣れてから「大口出品」に切り替えるということも可能です。(※「小口出品」はやれることが限られるので小口出品でそれなりの売り上げを作るのは難しい、というかほぼ無理だと思います。)

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