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2016-01-18

Aphex Twin / Syro レビュー 『大人になって帰ってきたテクノ界の奇才』

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高校・大学時代を過ごした90年代、
仲の良かった友人の影響で聞き始めたテクノにどっぷりとハマってしまい、

以降、他人には説明しがたいマニアックな音楽遍歴を過ごしています。

一昨年の2014年、若かりし頃に聴きまくっていた”Aphex Twin(エイフェックス・ツイン)”が
13年ぶりにアルバム”Syro”を発表しました。
聴こう聴こうと思っているうちに一年以上過ぎてしまったのですが、
最近またAphex Twinをちょこちょこ聴いていたので、思い出してようやく購入。

 

90年代はテクノというジャンルが一つのピークを迎えた時期でした。
それ以前からクラフトワークやYMOなどテクノの源流とも言える存在はいましたが、
機材の進歩やクラブミュージックとしての側面からテクノが大きく花開いたのが90年代。
デトロイトやドラムンベース、アンビエントなど、
テクノの中にも様々な呼び名のジャンルが生まれました。

その中でもAphex Twinは一時代を築いた超大物テクノミュージシャン・・・
なのですが、その評価は大きく割れているような気がします。

アンビエントから狂気のドリルンベースへ

自分が最初にAphex Twinの音を聞いたのは1994年か95年あたり。
“Selected Ambient Works 85-92″というアルバムでした。
タイトルにある通りアンビエント寄りのアルバムでしたが、
これを聴いているかいないかでAphex Twinの評価は大きく分かれるような気がします。

 

このアルバムに収録されている曲はとにかく美しい。
一曲目に収録されている名曲”Xtal”を始め、繊細で聴きやすい名曲ぞろい。
自分の中でも当時好きだったアンビエントユニット”SUN ELECTRIC”に匹敵する
「美しいテクノ」を代表する存在でした。

ところがその仮面の後ろに隠されていたAphex Twinの狂気をすぐに知ることになります。

 

95年、96年に立て続けに発表された2枚のアルバム。
“I care because you do”と”Richard D James Album”。
僕はこの二枚を「顔シリーズ」と勝手に呼んでいますが、
この顔はどちらもAphex Twin本人の顔。
I care~の方では、いまだ若干の優しさを帯びた顔ですが、
Richard~の方では狂気を帯びた感じに加工された写真を使っています。
そのジャケットの変化に象徴されるように
Aphex Twinはここから自分の顔をモチーフにして
自らの内面というものを強烈に曝け出していきます。

その狂気の頂点がコチラの”Window Licker”と”Come to Daddy”という曲のMVです。
※グロとかは無いんですが、気持ち悪いっちゃ気持ち悪いんで「やや閲覧注意」です。

 

美しいアンビエントを奏でていたのが嘘のように変態的なドラムンベース。
Aphex Twinは「夢で見た音楽をそのまま曲にしている」と言っていましたが、
子供のころに見るような悪い夢のような雰囲気の曲のオンパレードです。

その破壊的な音は後にドリルンベースと呼ばれAphex Twinの代名詞になるわけですが、
“Selected Ambient Works”からの豹変ぶりには「いったい彼に何があった?」と思わざるを得ません。
とは言え、個人的にはこの頃のAphex Twinの作品が一番ドラマチックで好きだったりします。

ちなみに変態的な曲にピッタリのMVはこれまた変態的な映像作家として有名な
クリス・カニンガムの手によるものです。好き嫌いはともかくとしてAphex Twinの曲に
これほどマッチする映像作家は他にいないような気がします。
クリス・カニンガムのその他の作品については、また改めてご紹介したいと思ってます。

Aphex Twinには、映画「ダンサーインザダーク」の主演でも有名な
アイスランドの歌手ビョークに「放送終了後のテレビの砂嵐の楽しみ方を教える」という
その奇妙な人間性を表す有名な逸話がありますが、
以降その音楽性は「悪ふざけ」というしかないようなものになっていき、
2001年に発表されたアルバム”drukqs”を最後に、
オリジナルの曲の発表は2014年まで途絶えることになります。

Aphex Twinが大人になって帰ってきた

そして13年の空白を経て突如発表されたニューアルバムが”Syro”です。

発売直後すぐに買わなかったのは期待感とは裏腹に
嫌な予感や怖さが少なからずあったからなのですが、
二年遅れで聴いてみたアルバムは、
アンビエントともドリルンベースとも悪ふざけとも違う、美しい大人の音で溢れていました。

音は間違いなくAphex Twinのそれなのですが、
どこか懐かしい90年代の「あの頃好きだったテクノ」がこのアルバムには詰まっています。
子供が見る悪い夢ではなく、大人が見るハッキリと美しい夢。
でも目を覚ますと跡形もなく消え去ってしまう一晩だけの儚い夢。

若い頃には気恥ずかしくて自分が好きなものをまっすぐに表現できないということがあると思います。
大人になったとき、その頃にできなかった表現をまっすぐな気持ちで表現する。
そんな濁りのない純粋なテクノへの愛を感じるAphex Twin 13年ぶりの新作”Syro”。
しばらくは繰り返して聴き続けることになりそうな一枚です。

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