toggle
2016-12-02

~読書の秋を振り返る~11月に読んだ4冊のご紹介(ネタバレなし)

20161203_books_980

Q.本を読む時間がもっと欲しい。
A.時間がないのなら作ればいいじゃない。

・・・ということで足りない読書時間を捻出するために、
電車移動の間とか、イベント出店中の暇な時間とか、
ベッドに入ってから寝るまでのちょっとした時間とか、
最近はとにかく無駄な時間のほとんどをむりやり読書に充てております。
そんな感じで11月はなんとか4冊の本を読むことに成功。
結果的には「米澤穂信月間」と相成りました。

「さよなら妖精」 米澤穂信

「古典部」シリーズでおなじみの米澤穂信氏のもう一つの人気シリーズ。
それが大刀洗万智を主人公とした「ベルーフ」シリーズ。
その第一作が「さよなら妖精」です。
実は大分昔に不意打ちでネタハレを喰らってしまい、
読むのを先延ばしにし続けていたのですが、
ようやく気が向いたので読んでみることに。
結果から言うと、読んでよかったです。

一九九一年四月。雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるおれたちの街にやって来た少女、マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日常。そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の謎解きが始まる。覗き込んでくる目、カールがかった黒髪、白い首筋、『哲学的意味がありますか?』、そして紫陽花。謎を解く鍵は記憶のなかに―。忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの物語。

あらすじだけ読むと「ボーイ・ミーツ・ガール」要素を含んだ日常の謎ものっぽいですが、
途中からは現実に起こったユーゴスラビア紛争が物語に暗い影を落とします。
時折挟まれる小さな謎解きはおまけ要素。
この物語最大の謎解きは「彼女はどこに帰ったのか?」

異国での出来事に何もできない無力さや、その無力さを受け入れた上での諦観。
諦めの先に見える微かな希望。

この後シリーズの主人公となる大刀洗万智は本作では
正確に言うと主人公ではなく、すべてを見通す脇役の探偵という立ち位置ですが、
最後の叫びで一気に魅力的なキャラクターとして輝きだします。

元は「古典部」シリーズとして書かれるはずだったというこの作品。
そのあたりの登場人物の対比を考えながら読んでもおもしろいと思います。

「真実の10メートル手前」 米澤穂信

高校生の心中事件。二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累心中と 呼ばれた。週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの太刀洗と 合流して取材を開始するが、徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める……。太刀洗はなにを考えているのか? 滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執――己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト、太刀洗万智の活動記録。

「ベルーフ」シリーズの続編短編集。
こちらは全編を通して大刀洗万智が主人公の物語。
ただしどのお話も大刀洗万智の一人称ではなく、
各話ワトソン的立場の人物目線で描かれています。
これが大刀洗万智という人物像を浮かび上がらせるのに実に効果的に感じました。

「さよなら妖精」から10年から15年程度作品世界の時間が経過したお話。
高校生だった大刀洗万智も30歳前後の年齢で、
作中でも新聞記者からフリーの記者に転身する間の期間が描かれています。

こちらは基本的に殺人事件など後味の悪い事件が取り扱われていますが、
面白いのは事件の解決そのものを主眼に据えるのではなく、
記者という立場から事件の背景にある見えない部分、
特に新聞やテレビといったジャーナリズムの危うさを表現する内容になっています。

「さよなら妖精」で経験した無力感が、物事の本質を鋭く射抜く目に昇華する。
「自分は何のために記者をやっているのか?」と悩み自問自答しながらも、
その鋭い洞察力を生かして事件に向き合う大刀洗万智の仕事の記録でもあります。

ちなみにこのシリーズにはもう一冊「王とサーカス」という長編があるのですが、
読む順番としては「さよなら妖精」→「王とサーカス」→「真実の10メートル手前」
の方がいいのかもしれません…って数日前に「王とサーカス」を読み始めてから
思いました。

「夜行」 森見登美彦

僕らは誰も彼女のことを忘れられなかった。

私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。
十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。
十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。
夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。
私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。
旅の夜の怪談に、青春小説、ファンタジーの要素を織り込んだ最高傑作!
「夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ」

僕の中で森見登美彦はいつになっても
「四畳半一間に暮らす男子大学生を書かせたら右に出るものがいない作家」です。
「太陽の塔」や「四畳半神話大系」など、
モラトリアムを無為に過ごす男子大学生の悲哀、面白み、楽しさを
独特の言葉の表現でユーモラスに描く作品はどれも魅力的。
特に「夜は短し歩けよ乙女」は僕の生涯ナンバー1のオススメ小説です。

一方でバランスをとるように「きつねのはなし」や「宵山万華鏡」など
和の雰囲気を生かした不思議な怪談を描いた作品群もまた大きな魅力。

いずれにしてもファンタジーという括りで言い表せる作家さんだと思っていたのですが、
今作「夜行」は新境地。純粋に「怪談」です。

ある目的のため集まった登場人物が一人ずつある連作の絵画にまつわる
不思議な話を披露していくのですが、その内容がどれも不安定。
どこまでが現実でどこからが虚構なのか?その後その話はどう解決したのか?
解決していないのなら今目の前にいる人物は誰なのか?

不安を解決させるために必要な情報が一つも与えられないまま、
暗闇の中を手探りで進むかのように淡々と語られる雰囲気が

読み手を何とも言えない不安感に陥れます。

終盤に微かな光明が見えて解決に向かうのかと思えば、
最後にまたもうひと落ち。
そこまで読めばもう今居る世界がこちら側なのか向こう側なのか?
それすらもはっきりと分からなくなってしまうかもしれません。

作家生活10週年の締めくくりとして刊行された森見登美彦13年目の(!?)大作。
作者にとって
大きなターニングポイントになりそうな作品です。

「いまさら翼と言われても」 米澤穂信

神山市が主催する合唱祭の本番前、ソロパートを任されている千反田えるが行方不明になってしまった。夏休み前のえるの様子、伊原摩耶花と福部里志の調査と証言、課題曲、ある人物がついた嘘―折木奉太郎が導き出し、ひとりで向かったえるの居場所は。そして、彼女の真意とは?(表題作)。奉太郎、える、里志、摩耶花―“古典部”4人の過去と未来が明らかになる、瑞々しくもビターな全6篇。

11月30日に刊行されたばかりの「古典部」シリーズ最新短編集。
実は初掲誌でほとんど読んでいたので、さらっと再読。

これまでは日常の謎系の話の色が濃かった「古典部」シリーズですが、
この短編集ではそういう雰囲気は抑えられ、
各登場人物のキャラクターの掘り下げが積極的に行われています。

里志はどうしていろいろなことに首を突っ込むのか?
伊原はどうしてずっと折木に冷たかったのか?

折木はどうして省エネ主義になったのか?
千反田はどうして突然姿を消したのか?

箸休め的ながらシリーズ全体の大きな転換点になりそうな短篇集です。
まあ高校2年生ってこういう感じで将来の事とかをリアルに悩み始める時期だよねー。
なんて思いながら読みました。

—–

というわけで11月に読んだ4冊でした。どれも面白かったので気になる方はぜひ。
12月はもうちょっと読むぞ!

Pocket

関連記事