toggle
2017-01-17

「金の国 水の国」岩本ナオの感想(ネタバレなし)。近年まれに見る上質なおとぎ話。

金の国水の国

「このマンガがすごい!2017 オンナ編」で1位に輝いた岩本ナオさんの「金の国 水の国」。
さわりだけネットで試し読みをしたらいい感じだったので書店で購入。
想像以上・・・というか早くも今年一番オススメの本が
決まってしまったと言ってもいいくらいの名作でした。

(あらすじ)

昔々、隣り合う仲の悪い国がありました。

毎日毎日、つまらないことでいがみ合い、
とうとう犬のうんこの片づけの件で戦争になってしまい
慌てて仲裁に入った神様は2つの国の族長に言いました。

A国は国で一番美しい娘をB国に嫁にやり
B国は国で一番賢い若者をA国に婿にやりなさい―――

そんな中、A国の姫・サーラはB国の青年と偶然出会い…!?

つまらないことで戦争になってしまったA国とB国。
それぞれの国の国王はお互いの国を見下しているので、
神様のせっかくの計らいも無にしてしまうのですが、その時の二人の国王の対応が
偶然にもA国の姫・サーラとB国の口の達者な技術者・ナランバヤルを出会わせます。

戦争が起こるくらいなので両国の関係は険悪なのかといえば意外とそうでもなく、
二人の国王以外の登場人物はとても穏健で、
互いの国を「国境の向こうのよく分からない国」とほんの少しの恐れを抱きつつ
自分の国の将来を憂いています。

そんな中、誤解とやむをえぬ事情から夫婦のふりをせざるを得なくなった
サーラとナランバヤルがちょっとずつA国の政治の中枢に巻き込まれていき・・・

という感じのお話です。

とりあえず登場人物に「心の底から悪い人」がいないので安心して読むことができます。
特に主人公のサーラとナランバヤルのお互いを思い合う気持ちは
本当に読んでいて心が温まりっぱなし。

金の国水の国

ナランバヤル、サーラに一目惚れのシーン。
設定上、サーラはお姫様と言っても美人ってわけではないのですが、
読み進めるうちにどんどん「これ以上魅力的な女性がこの世の中にいるわけがない」
と、読者も思うようになってくるから不思議です。
もっともナランバヤルは自分のことを「守備範囲が広い」と言ってましたが(笑)、
上の写真のシーンで人を見る目の確かさがうまく表現されていると思います。

という感じで主人公二人を中心としたラブロマンスとしても
十分楽しめる作品なのですが、
タイトルにも書いたとおり、このお話は「おとぎ話」。
おとぎ話には昔からたくさんの教訓や闇が隠されています。
ちょっと視点を変えると「金の国水の国」にも
現代にも通じる国家間の争いや国内の政治的な確執、
そして家族の問題などが隠されているのがわかります。

ネタバレになってしまうので詳しくは書きませんが、
たとえば終盤のシーンでサーラが父親である国王に言った
「お父様が国王でよかった」
というセリフなんかは話の流れとしてごく当たり前の発言のようでありつつ、
よく考えると直前のナランバヤルの発言を受けてのサーラの言葉としては矛盾していて、
このお話一番の奥の深いセリフだと僕は思っています。
もちろんサラっと読み流してしまっても全く問題ない描かれ方にもなっています。

こんな感じで読む人によって登場人物の表情やセリフから感じることが
ぜんぜん違うんだろうな、
というところが「金の国水の国」のもうひとつの魅力です。
おそらく作者は意図的にそういう描き方にしているんだと思います。
ほんとに誰かこの本を読んだ人がいたら、細かいところまでじっくり語らいたい。

これだけの内容を普通の漫画1巻分にまとめ上げた
作者の物語の構成力には感動すら覚えます。
少年漫画で同じような教訓を描こうと思ったら70巻くらい必要なんじゃないだろうか?

ノイタミナ枠あたりで丁寧にアニメ化してくれないかなぁ。

Pocket

関連記事