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2023-06-09

本販売の現状と最近考えている絵空事

悟理道珈琲工房が店内で本の販売を始めてから8か月くらい経ちました。どうしてコーヒー屋の店内で本の販売を始めたのかなどについては以前書いたこちらの記事をご覧いただくとして、今回は当店での本販売の現状と今後のことについて書いてみたいと思います。

売り上げについて

まずは実際どのくらいの本が売れているのかのデータを公開します。(※10月はレジに本のカテゴリを設定していなかったのでおおよその冊数となります。)

2022年

10月 25冊程度 売上金額不明

11月 27冊 44,160円

12月 23冊 29,270円

2023年

1月 11冊 13,780円

2月 12冊 18,700円

3月 14冊 18,750円

4月 9冊 20,150円

5月 15冊 23,100円

販売開始からしばらくは物珍しさも手伝ってか一日一冊以上のペースで売れていましたが、今年に入ってからはだいぶ落ち着いてきて、新しい本が入ったタイミングや以前買った本を読み終えた方が次の本を買われるというパターンが出来上がりつつあります。

個人経営の喫茶店内での本販売というやり方において上記のような売り上げが多いのか少ないのかは判断しかねるのですが、本に関しては原価率が非常に高く利益はもともと期待できないので「自分が読んで売りたい本を売る」ということさえできている現状に概ね満足しています。いや、むしろ読みたい本を仕入れて一通り目を通してから販売して少ないながらも利益を得ているので、本好きが本を売るというシステムは実は相当お得なのかもしれません。

こういう本が売れてます

どう頑張っても100冊位しか本を並べるスペースがないので、当店では本のジャンルを絞って販売しています。大きく分けると『哲学・社会学・言語学』『コーヒー』『店づくり・まちづくり』『アート』『小説』という5ジャンルです。単純に僕が好きなジャンル上位5つです。

このなかで一番売れているのは『哲学・社会学』の本、次に『店づくり・まちづくり』の本、そして『コーヒー』の本という順番で『アート』と『小説』関連の本はあまり売れてません。

当初はさすがにコーヒー関連の本が一番売れるだろうと予想していたのですが、いざ始めてみると意外にも哲学本や社会学関連の本の方が圧倒的に売れてます。社会学に関しては僕がひねくれた性格をしているので世の中をちょっと斜めに見ている本が多いのですが、そういうのは特に人気があります。類は友を呼ぶといいますか喫茶店を5年やってきて嗜好が似た方が多くお店を利用してくれているということなのかもしれません。

店づくり・まちづくりの本に関しては僕がお店の収支を公開していることや、まちづくりに関するYouTubeチャンネルを運営していることもあって、そういうジャンルに興味のある方が購入してくれているようです。

全てのコーヒー屋が読むべき本

コーヒーの本は思ってたよりは売れていないのですが、もうちょっと正確に言うとコーヒー関連の本の中でも予想していたのとは違うジャンルの本が売れています。コーヒーが好きな方も多く訪れるので最近よく見かける「図解で分かるコーヒーの知識」的な入門本を置いておけばコンスタントに売れるだろうと思っていたらこちらはほとんど売れず、もうちょっとマニアックで文学的要素もある本の方が人気です。具体名を挙げれば「大坊珈琲店のマニュアル」や蕪木祐介さんの「珈琲の表現」、最近だと再版されたオオヤミノルさんの「珈琲の建設」とその続編にあたる「喫茶店のディスクール」あたりはコンスタントによく売れてます。上記の本はコーヒーの本でもありつつ、一種の哲学本とも言えるのでこちらからもお客さんの嗜好の偏りが垣間見えます。

喫茶店で本を売ることに関する考察

売れている本の傾向から考えるに結局のところ本の販売を始める前の喫茶店としての5年間でおおよその客層(嗜好の偏り)が形づくられていたので、自分が選ぶ本を違和感なく読んでいただけたのではないかと思います。逆に言うと本棚にお店、というか店主の個性がしっかり反映されていなければ本を並べてもそんなに興味を持って見てもらえなかった可能性もあります。あとは新刊本でも読んでから棚に並べるようにしているので、気になって手に取ってくれた方に対して概要やおすすめポイントなどを説明できるのも購買率の向上に寄与していると思います。

最近本屋さんの減少が話題になる一方で独立系書店と呼ばれる小さなお店は増加傾向にあります。業態としては店主が選書した本を並べるいわゆる「個性的な」本屋さんという位置付けだと思うのですが、個人的にちょっと危惧しているのは独立系書店、特に新刊本をメインで扱うお店はどうしても商品ラインナップが似てしまいがちということです。大手書店の没個性を嫌って本を選ぶ楽しみを得られる独立系書店が増えているのに、その独立系書店が増えれば増えるほど没個性になっていってしまうというのは悲しむべき自己矛盾です。(古本をメインで扱うお店の場合ジャンルの選択肢の幅が広いのでそういうことは起きにくいですが、それでもなんとなく似た感じのお店が多くなってきているような印象を受けます。)こういう観点からも「喫茶店+本」のように「〇〇+本」の形で本を販売するスタイルは紙の本の未来にかすかな光を当てられる本の売り方なのではないかと思っています。少なくとも没個性にはなりにくいですし、本のラインナップ以上に「そのお店の人が選んだ本を買う」という行為が購入への大きな動機付けになっているので内容はもちろん紙の本であることが重要になってくるので。

地方都市で本を売る弱みと強み(ほぼ弱み)

そんな感じで個人的には喫茶店内で本の販売を始めたことに対しては概ね満足しています。ですが純粋な商売として考えると現状は本の売り上げを使ってまた次の新しい本を仕入れているような感じなのでお店の利益に貢献しているとは言い難いのも事実です。

こういう状況下だと「本は本屋として別の場所を作ってちゃんと販売したいな」という気持ちが膨らんでくるもので、実際それを始めたらどんなものかとシミュレーションしてみるのですが、何度やっても栃木のような地方都市で事業として成り立たせるのは厳しいという結論に達してしまいます。(ちなみにここで言う「事業として成り立たせる」は純粋に本屋としての売り上げから得る利益だけで家賃や光熱費、人件費などをまかなって黒字にするという意味です。副業や別の事業で損失補填するというのは無し。)

地方都市で本屋さんを始める弱みを挙げるとまず人口が少ない。人口が少ないということは本を読む人も少ない。本を読む人が少ないということは文化的な感受性が豊かな人が少ない。文化的な感受性が豊かな人が少ないということは新刊書をセレクトした独立系書店の成り立つ余地がそもそもありません。またハード面でも駅前などのフラッと立ち寄れる場所にちょうどいい条件の店舗物件がない。さらになんといってもいまどき本なんかAmazonやその他オンラインショップで簡単に買えてしまう。要するに実店舗で本を売って事業を成り立たせる前向きな要素など地方都市にはほとんどありません。

一方で強みとなる要素ですがこれはもう弱みを裏返して考えるしかなく、自分のお店を中心に本を読む人を増やしていってお店の事業的な維持を可能にしつつ、本の存在を媒介にした一つのコミュニティを作り上げられる可能性が薄いながらも存在するということだと思います。ただしこれを実現しようと思った場合「地方都市で独立系書店を始めたい」というモチベーションだけでは厳しいのではないかと思います。要するに都心部の独立系書店のスタイルをそのまま地方に持ってきても経営を持続するのは難しいということです。

地方都市において本で食べていくための一つの可能性

栃木県を例に挙げるとやはり本屋さんは減少傾向にあります。大手だと宇都宮PARCOに入居していた紀伊国屋書店はPARCOの撤退に伴い閉店、ちょっと時代をさかのぼれば屋号は忘れたけど宇都宮市大通りのTEPCO La FONTEに入居していた大型書店やamsか西武にも割とマニアックな品揃えの本屋さんが存在していた記憶があります。そうした大型書店以外にも自分が中学高校生のころ(20年以上前)には気難しそうなおじちゃんやおじいちゃんが営む小さな古書店もたくさんあったのですが(学校帰りにそういうお店に寄って50円や100円の文庫本を買うのが楽しみだった。)高齢化やブックオフの台頭が原因なのかそうしたお店はいつの間にか消えて行ってしまいました。また2021年には那須町の書店空白地域に開業した書店が売り上げが伸びず4年で閉店するというニュースもありましたが(参考記事はコチ)いわゆる中規模の町の本屋さんの閉店も続いています。

一方で先述したような独立系書店は栃木県内でも増加傾向にあります。しかしながら当店同様「〇〇+本屋さん」といった業態のお店も多く、純粋に本屋さんとしてのみで事業を成り立たせているお店はやはり少ないのかもしれません。

そこで地方で本屋を事業を成り立たせるための鍵になってくるのが前段に書いた「本の存在を媒介にした一つのコミュニティを作り上げられる可能性」です。これは単に本が好きな人が集まって買い支えなどで書店の経営を応援するという意味ではもちろんありません。(それで成り立つのなら地方でも余裕で本屋の経営はできるはずなので。)僕がイメージしているのは地方の本屋による本というメディアを使った地方ローカルでないとできない表現活動、端的に言えば「出版」です。

本屋でローカルを自家焙煎して本として表現する

「本屋+出版」という業態は都市部ではすでにそこまで珍しいものではないし、地方にもないわけではありませんがまだまだ数は少ない。自分の知る限り栃木にはまだない。僕は地方に存在する本屋こそローカルの魅力、話題、まだ世に出ていない才能を本という形で表現して売り出すことができる存在なのではないかと考えています。

地方でローカルな話題を提供するメディアといえば栃木を例にすると下野新聞のような地方紙やとちぎテレビ・レディオベリー・栃木放送のような県内全エリアをカバーする放送局、そして市町単位で存在するコミュニティFMなどが知られています。しかしこうしたメディアから提供されるローカルな話題は確かにローカルではあるものの「情報」としての価値が優先されていて表層的です。

またローカルな本という意味ではこれもまた栃木県を例にすると「もんみや」のようなタウン情報誌も存在しますが、こちらはローカルな話題ではあるものの情報の内容はかなり商業的です。

地方にはまだまだ切り取られていないおもしろさがたくさんあります。特に目立つものでなくとも、極端に言えばこの文章を読んでいるあなたから半径100mの範囲にもしっかりと掬い上げて編集すればとんでもなくおもしろい話題が存在しているはずです。でも先に挙げたような各種メディアではそうしたローカルすぎるまちの面白さを取り上げることはなかなかありません。でも本屋なら自らの手でそうした身の回りのおもしろさを本という形に編集できる可能性があるのではないかと考えています。

その作業は誰にでもできるものではありません。コーヒー屋が生豆を仕入れてそれを焙煎し独自のコーヒーの味を生み出すように、本屋を営む者がほかの誰もが気付かないローカルの魅力を編集して本という形で表現する。そしてその本を販売する。現実的な工程の難しさは置いておいて、本を選ぶだけではなくまちを編集する本屋さんがいたらそれはかなり魅力的な存在だし、地方の本屋さんの事業を成り立たせるという意味でも可能性を感じさせてくれるものではないでしょうか?「喫茶店 + 本屋」がアリなのならば「編集・出版 + 本屋」がナシな謂れはありません。

絵空事ではあるけれど

とまあ当店の本販売の現状からずいぶん遠いところまで話が辿りついてしまいましたが、それを実現させるためには様々な困難が伴うなんて言うのは承知の上で最近頭の中で考えていることを文章化してみました。現時点では絵空事のような話ではありますが考えれば考えるほど楽しそうだなと思えてくるので、とりあえずの足掛かりとしてローカルな話題をテーマにしたZINEでも一冊作ってみたいなと思っています。そんな時間が捻出できるのかはなはだ怪しいですが。この文章を読んでみて興味を持たれた方がもしいらっしゃいましたら思考の整理もしたいのでお声がけいただければうれしいです。あと栃木県内だけでなくローカルをテーマにしたZINEなどを作られている方で販売委託先を探している方がいらっしゃいましたらお問い合わせください。一度読んでみてからの判断にはなりますが当店で販売させていただきます。

長文にお付き合いいただきありがとうございました。

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