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2016-05-21

“VITAMIN”と”BASIN TECHNO” 音楽業界の幸せで不幸せな四半世紀

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1993年、確か僕が高校2年生だった年。
電気グルーヴの”VITAMIN”というアルバムが発売されました。
友人の影響でYMOやその他国内外のテクノっぽい音楽に触れていた自分にとって
このアルバムはその後の音楽遍歴を偏らせる決定打でした。

電気グルーヴはこのアルバムを出すまではテクノというよりは
エレクトロなコミックバンドという位置づけだったのですが、
“VITAMIN”で一気に世界のテクノシーンへ駆け上ることになったのは
好きな人ならご存知だと思います。

特にアルバム後半の一連のインスト作品(Stingrayやpopcornや新幹線)は
踊れはしないけどメロディーが美しい「聴けるテクノ」として高い評価を受けています。

しかしながらこの頃はまだ「聴けるテクノ」一本ではCDビジネス的には厳しく、
アルバムの前半部をやむなくそれまでの電気グルーヴらしい「歌もの」にすることで
レーベルとの妥協を図ったというのはファンの間では有名な話。

その頃はCDをたくさん売ることがミュージシャンが生き残る唯一の道だったのです。

それから23年、約四半世紀の時を経た現在。
CDはすでに過去の遺物となりかけています。
CDに代わると思われたダウンロードもいまいち普及せず、
CDが売れるのは握手会やその他特典が付いた一部のミュージシャン(?)だけ。
そしてそれすらも下火になりつつあり「音楽業界は厳しい」というのが一般的な印象です。

でも本当にそうなのか?

僕の知る限り、インディーシーンと呼ばれる
若手のバンドやミュージシャンの活動は昔よりも活性化しています。

これはメディアというか情報発信の手段が一部の大手のものだけのものから、
Youtubeやその他の発達により、個人の手に移ってきたことの影響が大きいと思います。

もちろん作品のクオリティが高いという前提はありますが、
情報発信のツールをうまく使いこなすことで、
大手のメディアを介さずともSNSを通じて大きな話題を得ることができるようになってきています。

そして、そうした新しい流れで人気を得たミュージシャンの多くは
いわゆるインディーの立場のまま地元のライブハウスを皮切りに、
徐々に大きなステージへとステップアップしていく訳です。

最近は「CDで儲けるのではなく、ライブとグッズで儲ける」なんていう話もよく聞きます。
昔と違いライブで盛り上げられるミュージシャンが「売れてるミュージシャン」なのです。

ただこのやり方だと一部の音楽好きの目には触れても、世の中一般の層には浸透しません。
ライブで売れてCDも売ろうと思うと、そこにはやはりメジャーの力が必要になってきます。

・・・前置きが長くなりましたが、
以上のような変遷と現状を念頭に置いて音楽業界を見まわした時に、
現在最も注目すべきミュージシャンが奈良から一気にメジャーに駆け上った岡崎体育です。

ちょっと前にYoutubeにアップされた「ミュージックビデオあるある」をネタにした
“MUSIC VIDEO”という曲のミュージックビデオ(ややこしい)が
話題になったのでご存知の方もいらっしゃるかと思います。


他にも「家族構成」や「FRIENDS」といった
映像化を前提にしたとした思えないネタ曲がYoutubeにアップされており、
インディーとは思えないクオリティの高さと、それに隠されがちではありますが
“BASIN TECHNO”(盆地テクノ)を標榜する宅録のクオリティの高さが評判を呼び、
ついに5月18日1stアルバム”BASIN TECHNO”でソニーミュージックから
あれよあれよという間にメジャーデビューを果たしました。


お世辞にもビジュアル的に恵まれているとはいいがたいのですが、
逆に言えば愛嬌のあるとも言える風貌で、いかにも関西!といった
面白さが受けているような気もしますが、
その裏には岡崎体育自身の冷静に計算されまくった
「売れる」ことへのこだわりを随所に感じることができます。

例えば話題になったネタ曲以外にも
Youtubeには楽曲で勝負の曲がアップされています。
中でも洒落た曲調に意味をなさない言葉を羅列した「スぺツナズ」は
後期の電気グルーヴ(VOXXの頃ね)を彷彿とさせる無意味なカッコよさ。


岡崎体育のオフィシャルホームページの「影響を受けた人物」の一番手に
電気グルーヴが挙げられているのを見ればさもありなん。
かっこよさもおもしろさも内包した音楽性からはまさに電気グルーヴに通じるものを感じます。

さらにこれは全く個人的な印象でしかないのですが、
“BASIN TECHNO” というアルバムは電気グルーヴの”VITAMIN”への
オマージュなのではないかという気がしています。

1曲目の”Explain”から5曲目の”Voice Of Heart”までが映像化を前提としたいわばネタ曲。
6曲目のインスト”Outbreak”を挟んで7曲目は無意味な歌詞で構成された美しい曲「スぺツナズ」。
最後に気恥ずかしさを帯びた歌詞を直球で歌い上げる「エクレア」。

意図的かどうかは全く分かりませんが、
これは”VITAMIN”の前半歌もの、「富士山」を挟んでの後半インスト。
最後にデビュー期の曲をリメイクした真っすぐな歌もの”N.O.”という
曲順の構成を意識して並べたような気がしてなりません。

ただこれが意図されたものであったとしても“VITAMIN”における電気グルーヴと、
“BASIN TECHNO”における岡崎体育が決定的に異なる点があります。

それは電気グルーヴは時代の要請にあわせて「売るために」やむなくそういう作品にしたこと。
一方、岡崎体育は明らかに「売れるために」こういう作品を作ったということです。

音楽不況が叫ばれるミュージシャンにとっては厳しい時代ですが、
作品の自由度やそれを聴くリスナーの許容範囲は多様化されて広くなっています。
そういう意味では今は昔と違い、いろいろなスタイルにチャレンジすることができる
戦略的に自由な時代といえるのかもしれません。
そしてそれを使いこなせる手段を持つことが今のミュージシャンには必須であるとも言えます。

すでにインディーとは言い難かったクオリティーから、
電気グルーヴと同じソニー系レーベルでメジャーという後ろ盾を手に入れた岡崎体育が
これからも自由に攻め続けることができるのか注目です。

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