竹宮ゆゆこ 『砕け散るところを見せてあげる』 を読んだ感想のようなもの
本を読みはじめてすぐに「しまった!」と思ったのはいつ以来だろうか?
ドラマや映画を見て心を揺さぶられるということはあまりないけど、本に関しては別。
登場人物や空間のイメージを自由に想像できるので、とにかく感情移入してしまう。
それ故に読後のメンタルにできるだけ悪い影響を与えないように、
読む本のチョイスにはとても気を使い慎重の上に慎重を重ねているのですが、油断しました。
僕は悲しい結末のドラマや、人の醜さ、いやらしさ、汚さが表現されたり
主要な登場人物が途中で死んでしまいそうな
現代物のドラマや本は極力見ないようにしています。
こういうジャンルを好む人もいるようですが、そういう人たちがそんな内容から
どんなカタルシスを得ているのかが全く理解できません。
そもそも人の汚さや醜さを見るのなんてリアルな日常生活だけで充分だから。
この本を書店で目にした時、タイトルのインパクトや表紙の絵
そして裏表紙のあらすじに書かれていた
「つまり、UFOが撃ち落とされたせいで死んだのは二人」
という表現を見て「あ、これは読んじゃダメなやつだな」と直感しました。
「これは読んだら絶対にしばらくのあいだ暗い気持ちになる」と。にもかかわらず、
どういうわけか気になって最終的にはレジまで持っていってしまっていました。
そして読後の感想はまさに「読むんじゃなかった」でした。
読後に思わず「これを書こうと思った作者の気持ちがわからない!」と声を上げたほどです。
以下あらすじと感想になります。
極端なネタばれはしないように書いたつもりですが、
物語の解釈も含むので気になる方は読了後に読んだ方がいいかもしれません。
物語の序盤は「ヒーローになりたい男子」がいじめられている女子を助けて仲良くなり、
徐々に心を通わせていくという、まあベタで良くある展開なんですが、
物語の最初に配置された数ページの回想シーンが
その後の展開や背後の事情をある程度予想させてしまっているので、
きっとこのままいい方向には進まないんだろうな、という暗い気持ちで読み続けるしかない。
そして案の定、中盤以降は乱高下するジェットコースターのような、
いや、不条理なホラー映画にも匹敵する怒涛の展開。
そして最後は物語冒頭の回想シーンに収束していきます。
主人公である「ヒーローになりたい男子」は最終的にはヒーローになっているし、
いじめられていた女子は自分を苦しめる”UFO”を撃ち落として幸せになっている。
結果だけ見ればハッピーエンドなのだが、読後感が妙にすっきりしない。
なにかが噛み合っていない、食い違っている。
理由もわからずほどけてしまった知恵の輪のあとのように複雑な感情。
よく考えたら主人公は「ヒーローになりたい」と思った問題をヒーローとして解決できていない。
問題自体は解決したが、自分の感情を処理できていない。
助けたいと思った相手は助かった。でも助けたいと思った自分は何もできなかった。
そんな感情が、悲しいかな2機目のUFOを生み出してしまう。
よくある話ではあるのですが、
「困っている人を助けたいと思ったとき、その感情は誰のためのものなのか?」
ということがこの本の大きなテーマになっています。
純粋に助けたいから助けるのか、
それとも「困ってる人を助けてる俺、カッコイイ」と思って助けるのか?
後者は世の中的にはよく「偽善」と言われるやつですが、
じゃあ助けられた人にとってもそれは偽善といえるのか?
この物語の描きたかったことは日常に潜むそんな些細な人の感情についてなのではないかと。
結局のところ2機目のUFOも普通に考えれば登場人物全員にとって
あまり幸せではない形で撃ち落とされることになるのだが、
それでも主人公にとってはそれこそが幸せであり、
ようやく願い続けてきた「ヒーローになる」という夢を実現した瞬間でもあったのだと思います。
で、ここまでこの物語を読み解いた時に「あれ?」と疑問に思い、ふと気づくわけです。
登場人物の中に一人だけ最初から最後まで感情のかけ違いをすることなく、
この結末に向かって迷うことなく突き進んでいた人物がいることに。
その人物だけは最初から、いや主人公と関わりを持つようになってから、
ほぼ自分が思い描いてきたストーリーを実現するように行動してきたのではないか?
よく見るとそのことを暗示しているようなさりげないセリフもあったりします。
そう思いながら冒頭の回想シーンを読み返すと急にこの物語が恐ろしいものに変化するわけです。
終盤の描写がものすごくあっさりしている上に、
あえて登場人物の感情を明確に表現していないため、
読む人によって解釈はそれぞれ異なる物語になっていると思います。
実際、気になったのでいくつかレビューも拝読してみたのですが、
基本的にはハッピーエンドという解釈が多いようです。
でも自分はなかなかのバットエンドだと読み解きました。
世界を救うために助けた相手が心の奥で実は世界征服を企んでいたような。
少数派の解釈なのかもしれませんが、
作者の意図が分からない以上、こういう捉え方もありなのではないかと。
「読み始めなければよかった」と思いながらなんとか読んだ本でしたが、
結局のところ案外その世界観に引きずり込まれていたような気がします。
でも、なるべく早くほっこりできる本を読んでこの本のことはリセットしたいなと思います(笑)